2008年11月19日のことですが、創業10年のドイツ太陽電池メーカー、ソーラーワールド社が、GM傘下の自動車大手オペルの買収計画を発表し、自動車業界を仰天させました。
ソーラーワールド社のオファーは10億ユーロ。2億5千万ユーロをキャッシュで、残りを信用供与枠で提供するというもので、その目的は、オペルを世界初の再生可能エネルギーのみを使う電気自動車専業のメーカーとして生まれ変わらせることでした。
化石燃料と大量消費文明に支えられた20世紀を代表する巨大企業を、新興のソーラーエネルギー企業が買収するという、まるでダビデとゴリアテの神話を彷彿とさせた最初の一手はしかし、突如としてGM取締役会の中でオペル売却に反対する声が強まり、
「オペルを売るつもりはない」
という異例の声明が発表され、白紙撤回されてしまったのです。
それから3年あまり。破綻したGMは実質的には国営企業とも言える枠組みの中で多くの犠牲をはらい、再生を果たしました。
旧態依然としたメカニズムをつつむ綺羅びやかな表皮だけを張り替え、複数のブランドで同じような車種を売りさばいていた以前とは打って変わり、現在のラインアップは、エタノール燃料を使える車種やハイブリッド車ばかりか、発電用の小型エンジンを積んだ電気自動車までもが揃う環境技術のショーケースに変貌しました。その様子は、もはや新興の持続可能な社会を目指す自動車メーカーなど必要無い、新生GMこそがその役割を担うんだと高らかに宣言しているようです。
しかしドイツの新興太陽電池メーカーは、モビリティのスタンダードを塗り替える夢を諦めたわけではありませんでした。
そして新しい希望は、幾千もの神話にも描かれているように、いつも旅に出ることから始まります。
ソーラーワールド社が、ボーフム技術専門大学と共同で開発した2座のソーラーカー、SolarWorld GTは、昨年2011年の10月、世界一周の旅に出発しました。成功すれば、太陽のエネルギーだけを使った走行距離の最長記録を打ち立てることになります。
車両タイプ | |
太陽動力式4輪電気自動車 2ドア 2人乗 公道走行可 | |
寸法 | |
全長 | 4100 mm |
全幅 | 1600 mm |
車高 | 1335 mm |
重量 | |
車両重量(ドライバーなし) | 260 kg |
性能 | |
巡航速度 | 31 mph |
最大速度 | 62 mph |
空気抵抗 | |
CD値 | 0.14 |
太陽電池 | |
変換効率(最大) | 29.2% |
最大出力 | 823 W |
Photo: The SolarWorld GT Gallery
旅は、すでにオーストラリアとニュージーランド縦断の行程を終え、現在は北アメリカを横断しているところです。
ハイブリッド、レンジエクステンダー、エタノールなど、今実際に手に入れることのできる自動車の動力装置は、数年前とは比べられないほど豊富な選択肢が揃って来ました。次々と新しい発明をする、優秀な技術者たちの努力の賜物です。しかし彼らは、企業を運営しているわけでも、所有しているわけでもありません。
ソーラーワールド社がこうした試みを諦めないのは、そこに大きな理由があるように思います。
一見環境に良さそうなハイブリッド車も、製造段階からの負荷を考えると、決して良い買い物とは言えません。多くのハイブリッド車で採用されているニッケル水素電池が車に搭載されるまでに環境に与えるダメージは、今はまだ決して無視できない量です。普段の買い物や送り迎えに使うだけならば、古い車を大事に乗り続けるほうがはるかに環境のためになります。
一方、水素を使う燃料電池車は、長年リース販売されているにもかかわらず、一向に普及する兆しはありません。水素という宇宙でいちばん豊富な元素を燃料に使うのですから、本当であればいちばんポピュラーで、潤沢な開発費がかけられ、すでに残り少ない問題点のブレイクスルーがもたらされていてもおかしくないのですが、どうやら豊富にあることや、太陽エネルギーのように誰にでも手に入れることができる、ということがとても都合の悪い人たちがいるようなのです。
新興の太陽電池メーカーが買収計画を発表するや、あわてて売却計画を撤回したGMの大株主たち。
彼らはいったい何者だったのでしょうか?
Earth provides enough to satisfy every man's need, but not every man's greed
地球は、すべての人の必要を充足せしめても、彼らの欲を満たしきることはできない。
~Mahatma Gandhi
Source: SolarWorld GT Via: Earth Techling
Blog: Diary of the World Tour of the SolarWorld GT