ジェーン・グドール博士による、ある霊長類の観察記。

Photo: Jane Goodall's Wild Chimpanzees
Jane Goodall pant-hooting with chimpanzee - Michael Neugebauer

今からちょうど10年前、2002年に開かれた、ジェーン・グドール博士の講演の映像です。博士が1960年からアフリカでのフィールドワークを通して観察してきた霊長類は、どうやらチンパンジーだけではなかったようなのです。

グドール博士の講演は、いつも“チンパンジー語”のあいさつ、“パント・フーティング”から始まります。


ジェーン・グドール博士は、チンパンジーが道具を使うことを発見したことで有名な人です。発見というより、チンパンジーが目的に応じて道具をデザイン・作成し、使うことを証明したというほうが正確かもしれません。それまでは人間以外の動物が道具を使うだなんて、傲慢や宗教的な理由から、安易に認めるわけにはいきませんでした。
動物は、実は人間が勝手に想像しているより、はるかにインテリジェントかもしれない… 博士が切り開いた可能性はその後、大勢の動物行動学者を刺激し、多くの発見をもたらしました。今や道具をデザインして使うという行動は、大型の類人猿に限らず、鳥類や、タコなどにも確認されています。

言語も同様です。何ら根拠もなく、人類だけが持つと定義されてきた言語を、実は多くの動物が日常的に使っていることが次第に分かってきています。

そして自身と他者の認識については、オウムなどはお互いに名前を呼び合っているどころか、雛に名前をつけることも確認されています。

Photo: Jane Goodall's Wild Chimpanzees
Jane Goodall sitting with chimpanzee - Michael Neugebauer

自らを霊長と呼ぶ愚かな自惚れも虚しく、人間と動物の境界はいよいよあいまいになってきています。
今人間を再定義するとすれば、何がふさわしいのでしょうか…。あまりポジティブなイメージは浮かんできません。道具を作れてもその動機は暴走した強欲で、言葉を操れてもお互いに理解しようとはしない…。

この映像が撮られてからちょうど10年。惑星のある一方の底知れない物欲が、他方を苦しめるという構造に変化はあったでしょうか?
ある私企業が、黄金の代わりだと言いはって、過去の穴埋めに緑の紙切れを自在に刷り増しているような金融システムに、人々はとっくに見切りをつけることができたでしょうか?

それでも博士は、希望はあると断言しています。その可能性を知性や子どもたちに見ていると。
博士の信念は、どこから来るのでしょう?

Photo: Jane Goodall's Wild Chimpanzees
Jane Goodall with chimpanzee - Michael Neugebauer

Photo: Jane Goodall's Wild Chimpanzees
Group of chimps traveling through forest - Michael Neugebauer

Photo: Jane Goodall's Wild Chimpanzees
Adult female and baby chimpanzee - Michael Neugebauer

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講演中、ずっと博士の前に置いてあった猿のぬいぐるみはMr. Hといいます。博士は世界中どこへ行くときも彼を連れて行くのだそうです。
その理由は…

Mr. Hはただのぬいぐるみじゃあありません。彼にはストーリーがあるんです。それは1996年、尊敬する友達のゲイリー・ハウンからの誕生日プレゼントにMr. Hを貰ったことからはじまりました。
ゲイリーは25歳のとき、アメリカ海兵隊軍役中に視力を失っています。そのとき彼は、失明に人生を台無しにはさせないと決意したんです。
ゲイリーが手品の勉強を始めたときは、目が見えなければ絶対に上達しないと言われていたんですよ。

でも彼はとても、とても優秀なマジシャンになりました。子どもたちのためにショーをしても、誰も彼が盲目と気づかないくらいです。そして彼は子どもたちに、盲目になってから学んだ他の特技についても語るんです-スキューバダイビング、クロスカントリースキー、ブラインドゴルフ、柔道や空手など…。
ゲイリーのメッセージはシンプルです:
“人生で何かまずいことがあっても諦めるな。熱心に取り組めば、たいていの障害物は克服できる”

ゲイリーはMr. Hのことをチンパンジーだと勘違いしていました。私はゲイリーに尻尾を握らせて、
「言い逃れはできないわよ」
と言ったんです。
「チンパンジーに尻尾は無いわ」
「気にするなよ」
ゲイリーは臆面も無く言い放ちました。
「どこに行く時もこいつを連れて行ってくれ。俺の魂も一緒だ」
2010年時点でMr. Hは、すでに60ヶ国以上を旅し、世界中の250万人以上の人々に触られています。

私は、Mr. Hに触ると、ゲイリーから貰ったインスピレーションが少し付くのよと、みんなに言ってるんです。
でもMr. Hひとりだけでは、彼に触れたい何百万人もの人全員にメッセージを届けることはできませんから、Mr. Hジュニアに手伝ってもらうことにしたんです。オリジナルのMr. Hは私が預かることにして、皆さんは旅先にMr. Hジュニアを連れて行ってください。そして会う人にこの勇気の出るストーリーを伝えてください。人々は彼を見て笑顔を浮かべるでしょう。そして私たちには、もっともっと笑顔が必要です。


Mr. Hジュニアの収益金は、チンパンジーの保護に充てられているそうです。
日本では、ジェーン・グドール・インスティテュート・ジャパンのサイトで購入することができます。



ジェーン・グドール・インスティテュート・ジャパン
the Jane Goodall Institute

講演中、博士に言及されていた日本のチンパンジー、アイのページ:
チンパンジー アイ(京都大学霊長類研究所)

博士が設立した若者の社会活動を支える協会:
ルーツ(根)&シューツ(芽)

Photo: Jane Goodall's Wild Chimpanzees
Jane Goodall making "be quiet" gesture - Michael Neugebauer





2012/02/08 by Tate Slow
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