小さな青い楽園の最後の人魚。

Photo: Wikipedia

The Earth is the only world known so far to harbor life.
地球は現在知る限り、生物が命を維持できるただひとつの惑星なのです。

Pale Blue Dot-- カール・セーガン

この惑星は、本当にたくさんの生き物で溢れています。
ここでは、毎日のように新奇な生物が発見されている一方で、多くの種が誰に知られることもないまま絶滅し続けています。
でもよく考えてみると私たちは、耳慣れた名の長年聞き知っているはずの同居人たちについても、あまり詳しくありません。

200 years ago, when a sailor caught a site of Mermaid,
what he really saw, was supposed to be a Dugong.
Dugongs can only live on eelgrass.
There is no other place.
Here is such a place.
There must have been many at this beach, ago.
Today, researchers write,
fifteen Dugongs still live in the Red Sea.
One lives here.
This could be one of the last living Mermaids.

200年前、ひとりの船乗りが人魚を見ました。
でも彼が見たのは、ほうんとうはジュゴンだったのです。
ジュゴンはアマモを食べて暮らしています。
そういうところでしか生きられないのです。
ここはそんなところのひとつ。
昔はたくさんのジュゴンがいたに違いありません。
研究者たちはいいます。
この紅海で生き残っているジュゴンは15頭に過ぎないと。
そのうちの1頭がここにいます。
それが最後の人魚になるかもしれません。


人魚のモデルとして有名なジュゴン。同じ海牛類で水族館でもよく見かけるマナティーよりはずっと細身ですが、体長は2.5m前後、体重は230~500kgほどにもなります。

海棲哺乳類なのに最大12mしか潜れなくて、遊泳速度は時速3kmにすぎません。2~12分おきにのんびりと海面に上がるのは呼吸のためで、もっと機敏な大型のアザラシが20分ほど潜水できることを考えると、運動量のわりにずいぶん短いインターバルに思えます。

13~15ヶ月にもおよぶ長い妊娠期間を経て出産するのはたったの1頭で、仔は1年半ほども母乳で育ち、成熟するのには6~17年もかかります。

まるでビーグル犬のような愛嬌のある相貌から伝わってくるように、好奇心旺盛かつとても温和な性格で、他の動物を攻撃することはありません、それどころか、そもそも武器になる爪や牙をもっていません。

普段は単独で行動していますが、傷ついた仲間や乳児を抱いた雌を見つけると、どうやって連絡をとっているのか、集まってきて小さな群れをつくり、お互いに助け合います。

音に敏感で騒音を嫌い、透明で温かいサンゴ礁の海に棲みついて、明るい海底に生えたアマモ(海草)を食べては休み、食べては寝て、同じくアマモが好物のウミガメとはじゃれ合うほど仲良しです。

神経質なところもあって、水族館ではすぐに死んでしまうのに、様々なリスクにさらされるはずの自然の海では、ゆっくりと泳ぎながら平均で50年以上も長生きします。

この惑星には、そんな動物がもう6000万年も種を紡いでいるのです。

ジュゴンとマナティーの比較
Photo: Encycropedia Britannica

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野生=弱肉強食の世界。私たちが幼少期から繰り返し刷り込まれてきた、自由競争社会の根幹を成す世界観の証拠として、そして同時に自然に対する恐怖心を育み文明への従属を正当化する心理的な枷として -- 矛盾するふたつの機能をあわせ持つ近代的な考え方です。
ジュゴンの存在は、かつて人種間の軋轢からジェノサイドを肯定するために意図的に増幅され、その後も継続的に盲信されて続けているこの考え方の一意性を、やんわり諌めているようにも思えます。


もし地球が弱肉強食というルールを一意に採用している惑星なのだとしたら、飛び抜けた身体能力があるわけでも無く、これといった自衛手段も持たない、繁殖に長い時間がかかる穏やかで思いやり深いこの動物が、どうやってこれほど長い年月を生き延びてきたというのでしょう。

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かつて生息域の北限だった奄美の海ではすでに絶滅してしまいましたが、沖縄の海にはまだほんのわずかだけ、ジュゴンが生き残っています。

琉球時代、八重山の人たちはジュゴンを“年貢”として捕獲し、その肉は長寿の薬として珍重されていました。琉球王朝が捕獲を許していたのは特定の離島だけだったということと、個体数が多かったにも関わらず薬にするくらい貴重だったという事実から、決して乱獲されていたわけではないことが窺い知れます。かつてはザンと呼ばれ、津波を予知したり、嵐を引き起こしたりする精霊として畏れられていたという記録もあります。

ジュゴンが大幅に数を減らしたのは、この100年ほどのことです。たったそれだけの間に、絶滅寸前にまで追い込まれてしまったのです。
その原因は、人間同士の弱肉強食の営みでした。

琉球が処分され明治に入ると、西欧のテクノロジーと金融システムをコピーし、産業のいわゆる“近代化”を進めた日本政府の方針によって沖縄でも、より大きな船と大きな網で一網打尽にするという、南の海には向かなそうな漁法が導入されてしまいました。そのため、異変を感じるとサンゴの陰や海底に身を潜める習性のあるジュゴンもたくさん混獲されてしまうようになったのです。
また八重山では、そのおいしい肉を目当てに、ダイナマイトを使った乱獲が横行していたとも聞きます。

戦後を経て、ふたたび日本による統治が始まると、状況はいっそう悪化しました。
バブルに浮かれて無闇に推し進められたリゾート開発で大量に流出し始めた赤土によって、海水の透明度が失われてきたのです。それでも沖縄の海はまだ“比較的”透明ですが、変化は確実に影響を及ぼしています。海底で光合成をする餌のアマモは、今のように赤く濁ってしまった海底では、昔のように繁茂することはできないのです。
これは偏食で生息地のアマモしか食べないジュゴンにとって致命的なことでした。餓死する個体が増え、依然と続く混獲もあいまって、あっという間に絶滅寸前にまで追い込まれてしまったのです。

そして今度は辺野古のヘリポート移設計画。
まだわずかに生き残っている沖縄のジュゴンですが、もはや希望はないかもしれません。

沖縄のジュゴン目撃情報マップ
Photo: Association to Protect Northernmost Dugong

普天間基地の規模と、沖縄のロジスティクス上の役割を考えれば、そもそも小さなヘリポートに基地機能を移設することなど可能なはずがありません。
当初から基地用地の権利者リストには著名な政治家らが名を連ね、辺野古の丘の上には、高さこそありませんが六本木ミッドタウンかと見まごうほど豪奢で、いったい何万人を想定していたのか理解に苦しむほど巨大な国立高等専門学校のキャンパスが広がっています。両脇に亜熱帯林が茂る片側一車線の国道に突如出現するその威容は、明らかに整合性を欠いて見え、まるで原発誘致で買収された町のような不気味な気配に満ちています。

辺野古ヘリポート計画は、そもそも普天間移設とはまったく独立した問題で、なにもかも国庫からいくらか掠め取るための茶番に過ぎないと言ったら、それは言い過ぎでしょうか。

そしてそんな茶番によって根絶やしにされようとしている生き物は、争うことなどせずとも自然の中で充分に快適に生きられることを、静かに主張しているような動物なのです。

***

多くが自ら命を絶つほどの苦しみにあがきながら、恐怖に掻き立てられ勤勉に無意味な破壊を続ける狂った生き物が、ついに最後の人魚を死に追いやるとき、知る限りただひとつの生き物の楽園、この小さな青い惑星はいったいどうなってしまうのでしょうか。


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STRANGE THINGS HAPPEN UNDER THE SEA
うみのなかはへんなことばかりさ

THERE ARE MOUNTAINS + VALLEYS + CRATERS
やまや たにや ふんかもするし

SHALLOW WATER
あさせや

AND MEADOWS OF SEAGRASS
そうげんだってある

THE SEA CAN CHANGE COLOUR
うみは いろをかえるんだ

AND ALMOST BOIL
ゆだるほど あつくなるときも

AFTERWARDS GOING QUITE PEACEFUL
でもすぐにおさまるよ

WITH COOL CURRENTS
つめたい ながれと まざるから

MANY SALL STRANGE CREATURES APPEAR
きみょうな いきものたちが たくさんいるんだ

AND SPIKEY PLANTS
くぎみたいなしょくぶつとか

AND ONES LIKE SPEARS
やりみたいのや

AND SOME QUITE JAGGED
のこぎりみたいのも

I AM A DUGONG ALONE
ぼくはじゅごん ひとりぼっち

SOMETIMES HIDING
ときにはひっそりかくれてるよ

I HAVE VERY GOOD SIGHT
ぼくはとてもめがいいんだ

I BROWSE ON ALL SPECIES OF SEAGRASS
いろんなかいそうをたべるよ

AND OCCASIONALLY MARINE ALGAE
わかめもすこし

AMONGST BEAUTIFUL WATERWEEDS
きれいなみずくさや

AND WAVING KELPS
ゆれるこんぶのあいだで

SOMETIMES CLOSE TO AN ISLAND
しまにちかづいていったり

OR AMONGST CORALS
さんごしょうをおよいだり

IN WARM WATERS
あたたかいうみで

IN CLEAR OR MUDDY BAYS
すんだ いりえや にごった いりえにいくんだよ

ON RISING TIDES I MOVE INTO SHORE
しおがあがると はまべにいって

WATCHING SOME RED FIERCE FISH
どうもうな あかいさかなや

AND SOME WHICH JUST GLIDE PAST
すばやい こざかなを ながめるんだ

THEY OFTEN BECOME EXCITED + GATHER
こざかなは いつだって きゅうにこうふんして かたまりになるよ

OTHERS ARE PEACEFUL SWIMING
ほかのさかなは ゆっくりおよぐんだ

HERE ARE SOME TUMBLING FISH
ほら くるくるまわってる さかながいるよ

AND STRANGE FORESTS
かわった もりだなあ

OH! A FRIEND
あ! ともだちだ

AND GLIMPSES OF MORE
ほかにもいるぞ

PART OF A FAMILY NOW
もうかぞくのいちいんだ

OR EVEN HERD
むれのなかまになったんだ

by Alexandra Seddon

この絵本を描いた(そしておそらく朗読も?)のは作家のアレクサンドラ・セドンさん。
最近はオーストラリアの動物たちを題材にした子ども向けの切り絵絵本を制作しているのだそうです。
絵本の収益はオーストラリアのニューサウスウェールズ州メリンブラにある、ポトルー・パレス野生動物教育保護区でボランティアの資金援助に充てられているそうです。
Potoroo Palace Native Animal Educational Sanctuary

2012/01/03 by Tate Slow
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