巨大グリッドからエネルギーを解放する
極小テクノロジー。


私たちが抱える地球規模の心配事の多くは、エネルギーと電力の問題を中心としています -- いかにコントロールするのか、どうやって対価を支払っていくのか、このまま燃やしつづけて良いのか…

投資コンサルタントとしてならしていたジャスティン・ホール・ティピング氏は2000年、故郷コネティカット州ほどもある巨大な氷山B-15が南極大陸から分離したという報道に強いショックを受けました。

「これよりもっとマシなエネルギー供給方法はないものだろうか」

彼は長年ベンチャー・キャピタルで事業投資に従事してきた経験を生かし、極小スケールのエネルギーについて研究をしている大学やラボを資金援助をする投資ファンド、ナノホールディングスを設立しました。発電、送電、蓄電、資源の保全の4つの部門で、最先端の科学技術、ナノテクノロジーを応用し、根本から新しいエネルギーのあり方を探るためです。

資金的に大きなリスクを伴う事業ですが、ここから見えてきた可能性は実に驚くべきものでした。


Youtube(字幕あり -- 表示されない場合は、CCを押してください)

ナノテクノロジーは、まだまだ非常に若い研究分野で、アメリカ国立科学財団によると、現在の発展段階は1950年代のコンピュータと似た状態と考えられるそうです。
1950年に登場した最初の商用コンピュータ、UNIVAC Iの重さはおよそ7.2トンもあったといいます。しかしながらその性能は、今日のスマートフォンに遠く及ばないものでした。

1950年に完成した世界初の商用コンピュータ、UNIVAC I


アメリカ合衆国エネルギー省によると、人類は現在年間50京Btu(英熱量)の一次エネルギーを消費しています。その量は加速度的に増えており、2035年には年間73京Btuにも達すると予想されています。そのうち再生可能なエネルギーは10京ほどですから、理論的には、地球上のすべて海水を沸騰できるぶん以上の化石燃料や核燃料を消費することになります。そしてこの限りある資源は、ごく一部の人たちに専有されているのが現実です。


かつてイスラエルを統治していたペリシテ人は、優秀な製鉄技術を専有していました。
しかし、60キロ近くにもなる鋼の甲冑をまとい、巨大な槍と剣で武装したペリシテ人の武人ゴリアテは、羊飼いの少年ダビデが放った小さな川石によって、その命を落としたのです。

世界のエネルギーを独占する権力による統治は、小さな電子をうまくコントロールすることによって終わることになるのかもしれません。

籠目状の分子構造を持つカーボンナノチューブ

黒くないカーボンナノチューブのフィルム

赤外線によって電子が励起する透明フィルム(商品名:NIRVision

暗所でNIRVisionを通して見たところ

eBoxのアイデアを書き示したダイアグラム(日本語版)

家庭用の電力総合管理システムeBoxのプロトタイプ

新しい科学技術は、社会に様々なブレークスルーをもたらす可能性を秘めています。ただし研究成果を得るためには、大変な資金と時間が必要です。ところが、資本家や投資家の協力を得るためには、研究内容よりも、短期的に大きな収益をあげられるかどうか、を重視しなければなりません。
世界をより良くするために、という実は極めて合理的な理由は、ほぼ通用しないのです。

ホール・ティピング氏のように、人としてノーマルなヴィジョンを維持し、強い意思を持って行動している投資コンサルタントは非常に稀です。彼が18年間肌身離さず持っているのは、この写真です。

“Sudanese girl” by Keven Carter

Whenever I go round to somebody who says, "You know what, you're working on something that's too difficult. It'll never happen. You don't have enough money. You don't have enough time. There's something much more interesting around the corner." I say, "Try saying that to her." That's what I say in my mind.
「はっきり言って、あなたが取り組んでるプロジェクトは困難すぎる。実現できっこない。資金も足りない。時間も足りない。すぐにもできそうなもっと面白い話が他にいくらでもある」
誰かにこう言われるたびに、私は心の中で言い返すのです。
「この子に向かって言ってみろ」
と。

~ジャスティン・ホール・ティピング

2011/11/24 by Tate Slow
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