Photo: NASA/JPL
カール・セーガン氏の有名な詩、“A Pale Blue Dot”を本人が朗読したオーディオブックからの抜粋です。なるべく意訳したり順番を変えたりしないように気をつけて日本語訳してみました。
1990年2月14日、太陽系の縁、土星付近に到達したヴォエジャー1号は、氏のアイデアでお別れのため、最後に一度故郷の惑星を振り返ることになりました。そしてこのとき撮影されたのが、64億キロメートルの彼方で、ノイズのような光点にまぎれ(太陽に近いため)、三日月形に青白く光る、わずか0.12ピクセルの地球でした。
この地球のポートレートにインスパイアされ、カール・セーガン氏は1994年、この詩を書いたのです。
2年後の1996年、カール・セーガン氏は他界されました。
それは、この小さな青白い『点』に乗って太陽のまわりを、62度巡った後のことでした。
Photo: NASA/JPL
ヴォエジャー1号は今も外太陽系の探索を続けています。
こちらは、Richard O'Byrne氏が編集した映像です。
Carl Sagan - Pale Blue Dot from Richard O'Byrne on Vimeo.
From this distant vantage point,
the earth might not seem of any paticular interest.
But for us, it's different.
Consider again that dot. That's here.
That's home. That's us.
On it everyone you love, everyone you know,
everyone you ever heard of, every human being who ever was,
lived out their lives.
The aggregate of our joy and suffering,
thousands of confident religions, ideologies, and economic doctrines,
every hunter and forager, every hero and coward,
every creator and destroyer of civilization,
every king and peasant, every young couple in love,
every mother and father, hopeful child, inventor and explorer,
every teacher of morals, every corrupt politician,
every "superstar," every "supreme leader,"
every saint and sinner in the history of our species
lived there --
on a mote of dust
suspended in a sunbeam.
The Earth is a very small stage in a vast cosmic arena.
Think of the rivers of blood
spilled by all those generals and emperors
so that, in glory and triumph, they could become
the momentary masters of a fraction of a dot.
Think of the endless cruelties visited
by the inhabitants of one corner of this pixel
on the scarcely distinguishable inhabitants of some other corner,
how frequent their misunderstandings,
how eager they are to kill one another,
how fervent their hatreds.
Our posturings, our imagined self-importance,
the delusion that we have some privileged position in the Universe,
are challenged by this point of pale light.
Our planet is a lonely speck in the great enveloping cosmic dark.
In our obscurity, in all this vastness,
there is no hint that help will come from elsewhere
to save us from ourselves.
The Earth is the only world known so far to harbor life.
There is nowhere else, at least in the near future,
to which our species could migrate.
Visit, yes. Settle, not yet.
Like it or not, for the moment the Earth is where we make our stand.
It has been said that astronomy is a humbling and character-building experience.
There is perhaps no better demonstration of the folly of human conceits
than this distant image of our tiny world.
To me, it underscores our responsibility
to deal more kindly with one another,
and to preserve and cherish the pale blue dot, the only home we've ever known.
-- Carl Sagan, Pale Blue Dot, 1994
遥か彼方から望む地球の姿。
ごくありふれた、ちっぽけな惑星にすぎない。
しかし私たちにとっては特別なのだ。
もう一度あの『点』を見てほしい。あれは『ここ』なのだ。
あの『点』が私たちの故郷であり、私たち自身なのだ。
ここに、愛する人や知人がいて、
歴史上の人物や、今まで存在したすべての人類が生まれ死んだ場所なのだ。
幾多の喜びも苦しみも
幾千もの信仰やイデオロギー、経済政策も
猟師も略奪者も、英雄も裏切り者も
文明を創る者も、破壊する者も
王も農民も、恋人たちも
母と父と希望に満ちた子どもも、発明家も探検家も
道徳を説く者も、悪徳政治家も
スーパースターも、最高権力者も
聖者も罪びとも、共に種の歴史を重ねてきたのだ。
そして生きてきたのだ。
太陽に照らされて漂う、あの一片の塵の上で。
地球は宇宙という広大な劇場のほんの小さなステージにすぎない。
しかし想いおこしてほしい、そこには血の川が流れているのだ。
将軍や皇帝たちが切り裂いた血が。
つかの間の勝利と栄光を得るために、そして、その『点』にわずかばかりの領土を得るために。
止むことのなかった数多の残虐な行為を想いおこしてほしい。
この『点』の一方に住んでいた人々が、もう一方の同胞を苦しめる。
どれほどなのだろう、その尽きない誤解と、殺戮へと駆り立てた欲望、そしてその拭えない憎しみの深さは。
私たちの思い上がりと、根拠の無い自尊心
私たちがこの宇宙で特別な存在だという幻想は、
この小さな青白い光が打ち砕くだろう。
広がりゆく宇宙の闇の中で、この惑星はあまりにもちっぽけで寂しい。
深淵にまぎれ、誰も知るものもなく、自らの罪から逃れようと助けを呼んでも、気づくものもないだろう。
地球は生命をはぐくむ唯一の世界だ。
私たちが知る限りでは。
少なくともしばらくの間は、地球の種がよそへ移住することはできない。
訪れることはできるだろう。だが移住はまだ先だ。
好むと好まざるに拘わらず、地球こそが私たちの唯一の世界なのだ。
天文学は人を謙虚にするという。
虚空から見る私たちの世界の小ささは、人類の愚かな慢心を戒める。
私にとってそれは警告に聞こえる。
私たちはお互いをもっと思いやり、この小さな青白い『点』を大切にしなければならないのだ。
たったひとつの故郷を。