超低空を廻る宇宙ステーション、クリケット・トレーラー。


ギャレット・フィンリー氏は子どもの頃、小さなスペース(空間)が大好きだったそうです。その理由は、歯磨きのような日々の雑事ですら、地球とダイレクトにつながっていることが実感できるから。

やがて建築家/デザイナーとなった彼はヒューストンのNASAで、国際宇宙ステーションの“居住モジュール”の設計に携わるようになります。本当のスペース建築家として経験を積むうちに、だんだんと自分でも実際に使うことができるものが欲しくなってきました。

そこで彼は、子どもたちとキャンプするのに、テントよりもちょっとだけ快適で、軽量、コンパクト、かつフレキシブルな、地球を旅するのにちょうどいい大きさの家庭用の居住モジュール、“クリケット”をデザインしたのです。



この軽量キャンピングトレーラーの特異な形状は、空気抵抗が少なく燃費が良いポップアップ・キャンパーと、トレーラー・ホームの利便性を組み合わせたもの。できるだけ軽量でミニマムを目指して導き出されたデザインです。


クリケットとはコオロギのこと。
アウトドアでの良き夏の思い出のBGMといえばコオロギの鳴き声だし、最初のスケッチは屋根の昇降装置がコオロギの脚に似ていたので、クリケットと名付けたのだそうです。



A lot of what is 'green' about the Cricket is what is not there. =クリケットが“グリーン”な理由は、あれもこれも“備わっていない”ためです。


インテリア

子ども用のハンモックと大人用にはベッドが用意され、全部で4人就寝することができ、屋根をポップアップすれば天上高は6フィート2インチになります。全装備で2500ポンドしかありませんから、4気筒の小型車でも牽引することができます。クリケットはセミオーダー・システムで生産されるので、必要無いものまで買う必要はありません。そしてそれはそのまま軽さに反映されます。







初期の模型。ん、どこかで見たことがあるフォルムです。
ダイマクション・キャンパー?!



レクリエーションのキャンプは普通、必要最低限のものしか携行しませんが、キャンプ設営時や直後の様々なトラブルで多少不自由することがあっても、日が経つにしたがって徐々に慣れてきて、次第にこれで十分だと思えるようになってきます。そもそも寝る場所なんて大した広さは必要ありませんし、日用品の不足も、その多くは単に習慣によるものですから、広大な自然の中でいろいろリセットしてすごしているうちに、たいして問題に感じなくなります。

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今イスラエルでは、国の経済政策からくる過度なインフレに不満を持つ大勢の人々が、高騰する家賃やライフラインのコストに反発して借家を飛び出し、表通りに集まってテントで暮しています。この暴力を伴わないプロテストは、不便どころか、まるでウッドストックのようで実はとても楽しいのだと、本人たちから聞きました。テントは思いのほか快適だし、家賃も電気代も払わずに、がめつい資本家という共通の敵を持つ仲間がまわりに大勢いて助け合っている“カーニバル”が楽しくないわけありません。



クリケットが生まれた大地にかつて生活していた先住者たちも、自分をミニマムに、多くを他者と共有して、インフレーションに頼らない生活を続けていました。
エコロジーのために、ではなく、自分はエコロジーの結果なのだということを認識する。快適に過ごすための道具やシェルターはなるべく小さく賢くまとめ、地球を家にする。クリケットには、近世の習癖で当たり前と思っていた価値観をがらっと反転するためのヒントが詰まっているようです。
レクリエーショナルな目的のためだけでなく、居住というコンセプトもクリケット流に解釈しなおせば、もしかしたらすっかり落ち目の社会経済に大きなブレークスルーをもたらすきっかけになるるかもしれません。


七宝焼きや銀無垢などの豪華なエンブレムと違って、ただフレームを繰り抜いただけのシンプルなクリケットのエンブレム。
無意味な虚飾をデザインしなおすと、その向こうにはずっと精緻で豊かな景色が見えてくるようです。

I have spent most of my life unlearning things that were proved not to be true. =私は人生のほとんどを、真実ではないと明らかになった知識を捨てることに費やしてきた。
R. バックミンスター・フラー

Source: treehugger
Photo: cricket trailer / cricket trailer on FB

2011/08/10 by Tate Slow
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