ポスト石油時代のシティーライフ。


日本などの大量消費型の社会は、石油という格安のエネルギー資源で成立しています。電力はもちろんですが、輸送機関の燃料、衣料品や洗剤、医薬品、農薬や科学肥料にいたるまで、ありとあらゆる領域で多岐にわたり石油に依存しているため、もし石油が手に入らなくなってしまったら、現在の生活のほとんどがドミノ倒しに崩壊してしまいます。特に都市部への影響ははかりしれません。

予想される影響のスケールがあまりに大きく、またSF映画や小説などで何度もとりあげられたことから、一抹の不安を覚えつつも、かえって今すぐそんな漫画みたいな極端ことは起きないんじゃないかといまひとつ現実感が沸かないのですが、ある日突然石油が無くなるという事態が実際に起こり、危機的な状況に陥ってしまったことのある国が中米にあります。
ただその結果は、小説とは全く違う意外なものでした。

1991年、ソビエト連邦が崩壊し、キューバ共和国はまさにそんな小説さながらの状況に追い込まれていました。当時キューバ共和国は石油の全てをソビエトからの輸入に依存していたのです。そのうえ肉やチーズ小麦などの主要な食料の多くも輸入に頼っており、1989年の食料自給率は43%と当時の日本をすらをも下回っていました。
そんなときにソビエト連邦が崩壊したうえに、その機に乗じて米国がキューバに対する経済封鎖を行ったため、外国からの食料と石油の供給が完全に絶たれてしまうという事態に陥ってしまったのです。

輸入に頼っていた食料の備蓄は、配給でやりくりするもあっという間に底をついてしまい、あわてて食糧を増産しようとしても、石油由来の化学肥料や農薬に頼るそれまでの農法は使えませんでした。
電力が不足し、食料を冷蔵保存することもできず、地方の農地から都市部へ農産物を輸送する燃料にも事欠き、キューバは未曾有の食料危機に直面することになってしまったのです。

そんな中、かつて農業に従事していた一部の都市住人達が、ビルの間や屋上、壊れたビルの建つ空き地などに土を運び込んでゲリラ的につくったフード・ガーデンで、自ら食料を育てはじめたのです。

こうして自然発生的に始まった都市農業(アーバン・アグリカルチャー)はやがて一大ムーブメントになり、収穫後に長距離を輸送する必要が無い都市近郊を選んで大きな市民農園が整備されたり、農業の知識の無い人向けにテレビでも農業の教育番組が流されるようになるなど、国も政策としておおいにバックアップするようになったのです。

石油が無いため、農薬に頼らない害虫駆除の方法が工夫されました。
化学肥料ではなく、生ごみや屎尿を肥料にするリサイクル・システムも確立されました。
また、不足する医薬品の代替品として、多くの薬草がつくられるようになりました。

こうして次第にキューバは、必要に迫られごく自然に、オーガニック農法で食料を自給する非常に効率の良いサステイナブルな国家に生まれかわったのです。

今では、キューバの首都ハバナ市内で消費されている食料の80%は、ハバナ市内で生産されているそうです。

2008年にBBCで放送されたAround the World in 80 Gardens
モンティ・ドン氏が、Huertoと呼ばれるハバナ市内のフード・ガーデンを紹介しています。

サステイナブルな社会の成功例として海外からも多くの注目を集めているキューバには、日本からも研究者が訪れているそうですが、キューバの人たちは不思議がっているそうです。
実は危機に瀕したキューバが目標にしたのは、鎖国中の江戸だったとか。

関連サイト
The Power of Community: How Cuba Survived Peak Oil(キューバはいかに石油危機を乗り切ったか)

この本には、キューバがモデルにした元祖サステイナブル都市、江戸についても詳しく記されています。

不安定な原油価格や世界的に後退している景気、気候変動への懸念もあり、さまざまな国や地域でもアーバン・アグリカルチャーへの関心が高まっているようです。
アーバン・アグリカルチャーについてのドキュメンタリー映画、Edible Cityの予告編です。

こちらはEdible Cityの本編に収録されたOPENrestaurantプロジェクト。場所をかえて定期的に開催されるイベントでは、地元で収穫された素材でつくった料理を楽しんでもらいつつ、都市農業の啓蒙を行っています。


イギリス、マンチェスター市内の寂れた小道、Leaf streetを、パーマカルチャー・ガーデンにする都市農業プロジェクトのドキュメンタリー・フィルム。

Leaf streetの写真集

BBCドキュメンタリー「Future of Food」より

その他アーバン・アグリカルチャー関連サイト
City Farmer News
大江戸野菜研究会

2009/05/09 by Tate Slow
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