夏野菜を贅沢に楽しむ、
シシリー風貧乏ベジタリアン・パスタ。

リック・スタイン氏のベジタリアン・パスタ

イギリスの有名シェフ、リック・スタイン氏が、地中海料理を紹介するBBCの番組『Rick Stein's Mediterranean Escape』で、ベジタリアンのレシピを紹介していました。


正式名は、シシリー出身のベッリーニの作曲したオペラ『ノルマ』の大成功にちなんで、『パスタ・アラ・ノルマ』というのだそうです。つまり「シシリーで一番」の出来ということです。簡単でとても美味しかったので、解説を簡単に記載しておきます(わざわざ字幕をつけるほどでもないので)。

分量ですが、映像を参考にして適当に調整してください。ケーキやパンをつくるときはシビアな計量が必要ですが、こういう料理はあまりそういうことにこだわると、窮屈で退屈な味に仕上がります。安ワインでも飲みながら、いい加減に料理を楽しみましょう。
  • ナスを細切りにして塩をし、余分な水分を取り除きます。できれば調理の30分くらい前に。
  • ナスの水気をよく拭きとり、スキレットで熱したたっぷりのオリーブオイルで炒めます。映像のような色合いになったら、いったん取りおきます。
    ※少し奮発して良いエキストラヴァージンオイルを手に入れておいたほうがいいです。香りが全然違います。でも無ければ、カノーラ油でもかまいません。
  • ニンニクを荒く刻んでから塩といっしょに包丁で潰し、ざっとペースト状にして先ほどのスキレットに入れ、ナスの香りのうつった油で炒めて香りをつけたら、唐辛子フレークと刻んだトマトを加え、取りおいたナスを投入します。
  • 塩コショウをして、たっぷりのフェタチーズを加え、新鮮なバジルをざくっとちぎって入れます。
  • 茹で上がったパスタをソースと絡めれば完成です。追加のフェタチーズはお好みで。
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フェタチーズは塩気が強いので注意が必要です。塩分は少なかったら後で足せば良いですが、多すぎたときは取り返しがつきません。

完全にヴィーガンにしたいときは、チーズの代わりにカシューナッツをフードプロセッサーで砕いたものを使うと、甘くクリーミーでおいしいです。乾燥納豆を少量一緒に砕けば、チーズのような発酵風味を加味することもできます。

また、卵の入っていないエッグレス・パスタを使うほうが、ヴィーガンうんぬんを抜きにしても、野菜のソースとの相性がいい気がします。


肉や魚がないから物足りない、と思われるかもしれませんが、とんでもありません。野菜やハーブにも濃厚なうまみがあって充分満足できます。イタリア料理はトマトを多用しますが、もともとは悪魔の野菜などと呼ばれ、食用ではありませんでした。トマト以前のイタリア料理ではアンチョビを多用していたのですが、かつて貧しかったある家庭が、高くて手に入らないアンチョビの代わりに誰も食べないこの野菜を試してみたところ、大変美味だったため、それが広がって今ではアンチョビに代わってすっかりポピュラーになってしまった、という話を聞いたことがあります。このシシリーの貧乏レシピも、蓄えがないためにしかたなく季節ごとの収穫物を使った、というより、夏野菜の収穫を喜ぶ贅沢な料理にしか見えません(毎日同じなら別かもしれませんが)。それに、へんに材料に拘る(こだわる)よりも、あるもので工夫するほうがずっと創造的です。

週に1度くらいは菜食レシピにしてみるのもいいものです(もちろん2度でも3度でも)。嗅覚や味覚が敏感になってくるのが実感できます。そしてスーパーやレストラン、ご当地グルメの商品などが、いかに肉ばかりになってしまっているか、そんなことにも気づくようにもなります。また、肉食が減ると、冷蔵庫がガラガラに空いてきます。肉食はもともとペスト大流行のため人口が激減してしまったヨーロッパで、不足した農作従事者を補うため発展した習慣ですから、人口爆発の危機を迎えている現在は、菜食に慣れておくのもいいかもしれません。

リック・スタイン


レシピの名前の由来となったベッリーニのオペラ『ノルマ』より、アリア『清らかな女神よ(Casta Diva)』です。これはマリア・カラス版ですが、フィリッパ・ジョルダーノ版が空耳ジャンパーを獲得しているくらいポピュラーな曲です。

2011/07/27 by Tate Slow
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